twister

肉焼き対話

スポンサーリンク

 

異性の顔写真が次から次へと表示され、良いと思ったら右にスワイプしていいねを、そうでなければ左でグッバイ。

男女ともに同様の行動をし、お互いが右にスワイプした時、「マッチング」となる。おめでとう。相手にメッセージを送ることが出来るぞ。

出会える人の可能性を広げたく以前からアプリに興味はあり、Tinderというやつに登録した。

ただ自分は顔を出してSNSなどをやっているので、最初の頃は自分の顔写真を登録することに抵抗があった。登録時は顔写真だったが、すぐに消してなんか北海道で撮ったカニの写真に変えて3ヶ月くらいTinderをやっていた。プロフィール文は172cmだとか情報を載せてたが、カニの情報にしかならないことに後から気づいた。

1ヶ月で良くて1マッチ(しかも絶対メッセージ返って来ない)で何一つ楽しくなく、カニの写真を右スワイプするような人間と付き合いたいか?と自問し、2200円の月額を払ってる意味が本当にわからなくなったのでガッツリ載せることにした。何かを得るには何かを捨てる必要がある。

写真はたまたま一緒に飲んでいた初対面の恋愛マスターみたいな女性にいいアプリで何枚か撮ってもらい、その中で一番印象が良いと言われた写真に設定した。なんならプロフィール文も見てもらって変えた。やるからにはちゃんとやるんだ。

翌朝、相手からいいねされたという通知が何件かあった。カニ時代には一切無かった現象だ。さらにこちらからいいねをするといいねを返してくれたりする。すごい。カニで過ごした3ヶ月は一体なんだったんだろう。


そうして1ヶ月が経った。ある程度無軌道に右左をやっているとはいえ、多くの方とマッチングした。僕はメッセージをなんて送ればいいのかよくわかんなくて何もせずにしていた。引き続き2200円を捨て続けている。

相手からメッセージが来ることもある。だが何を返せばいい。「よろしくお願いします〜」ってだけ来てもわからないよ。「こちらこそ。」とだけ返したら終わることくらいはわかってる。

そうだ、相手のプロフィールを見てそこからメッセージの取っ掛かりを探すんだ。そうしよう。「韓国大好き!どちらかというとおごられたい派です」なにこれ?これだけ?どうすりゃいいの?コミュニケーション取る気ある?俺だってどちらかで言えばそうだよ?

「韓国料理おごります!」

全然正解がわからないが、相手のプロフィールから得られる情報を全て使ったメッセージを作成した。「ありがと〜」って返ってきた。もういい。この人にケジャンをおごる必要はない。

それでもこのパターンなら送れるぞと、過去にマッチした人たちにメッセージをしてみた。これは後から言われたことなんですがマッチしてから1ヶ月後にメッセージ送ってくる奴なんか絶対無視するそうです。

さらに1ヶ月が経ち、だいぶ慣れてきた。メッセージの温度感も理解し、マッチすることもメッセージが続くことも日常になる。

「メッセージがダルすぎる」という新しい問題に直面した。まあまあ丁寧に送っていたので、そもそも友人からのLINEすらあんまり返さない自分がそれを全員にやるのは無理だった。

よって、さらに絞っていかねばなるまい。マッチしていただいた方たちのプロフィールを読み込み、そこから上手く関係性を築けそうな人を探していく必要がある。ええ、そうです神父様。私は顔だけでスワイプをしていました。

「早くいい人と出会って仕事辞めたいです」
あー、価値観が合わなそうだな。

「毎月キャンプに必ず行ってます!一緒に行ける人がいいな」
アクティブだな、合わなそうだな。

「子供は最低3人はほしいです」
これをTinderのプロフィールに書く感覚が絶対合わないな。

「普通に挨拶送られても返さん笑 面白いこと送れって感じ」
ああかわいそうに、増長してしまっている。なかなか治らないぞその病は。

「休みは寝るかゲームするかしてます笑 でもたまに出かけるのも好きです」
おっ

休日の過ごし方が似ていたので興味を持った。僕はそんなにアウトドアな方ではないので、これを結構大事なことだと思っている。
プロフィール画像がちょっと後ろ姿寄りの横顔でよくわからないんだけど、細くてオシャレな感じがする。なんか髪型的に綺麗そうな印象も受ける。

メッセージを何通かやりとりしてLINEを交換し、「もしモンハン持ってたら一緒にやりませんか?」って聞かれたので「持ってるよ!週末やろう」と返事をし、その日の夜にゲオでモンハンを買って帰った。一緒にやれるように、徹夜でストーリーをクリアしハンターランクを上げ続けた。

通話しながら一緒にやるモンハンは楽しかった。そもそも僕は今までモンハンシリーズをやったことがなく、ゲーム内では結構助けてもらうことが多かった。なんて優しい人なんだと思った。
他愛もない話なんかもしつつ、今度ご飯に行きましょうと約束をする。

 

彼女は、焼肉が食べたいと言っていた。

その時はまん延防止措置の渦中であり、焼肉屋はお酒を出さないし早く閉まる。僕は基本的に飲まないので問題ないが、相手は焼肉となれば絶対お酒を飲みたいらしい。

じゃあ明けてからにしようかなんて言ったところ、1つ提案をされる。

「私の家で焼肉しようよー!」

会ったことのない女性から初手で招かれることは少々レアケースで、経験上このパターンは無害でおかしな人が多い。
そして俺は昔から、「ヤバいかもな」と感じた時に最も好奇心が強くなる。

「おっけー!」

当日、俺は自殺でしか聞いたことがない新小岩駅にやってきた。送られてきた住所の通りに歩み、キレイなアパートに到着した。

家集合で荷物を置いて、そこからスーパーに肉を買いに行くということになっていた。オートロックをくぐり、これから待ち受ける初対面に少し緊張しつつインターホンを押す。

「はーい」

ガチャリ

小学生の時、先生に連れられて日食を見たことがある。いつもそこにある太陽が隠れていくのがだんだん怖くなって、日食グラスから目を反らす。明るかった校庭にゾッと影が射して、海の中にいるみたいだった。

ドンッ!

この効果音が適切で、なんか、おそらく100kgとかあると思う、自分より縦にも横にも大きい女性が玄関を埋めていて、その後ろにあるであろう電球が隠されて暗くなってて、同じように目を反らした。

「お腹すいた!早く買いに行こ、荷物置いて」

「あ、ハイ」

スーパーまで歩く。言いたいことはある。写真は誰だとか聞きたい。しかし少し呆然としてしまっており、ちょっと何も言えなかった。どうやって穏便に帰ろうかと思考を巡らせていたら一切気を遣えていなかったので、気付けば相手に車道側を歩かせていた。

男性が車道側を歩く、みたいな行為は今まで意味もわからずになんとなくやっていたけど、自分より大きい人間が車道側にいる安心感って結構あるなと思った。こういうことか。これからの人生に活かしていこう。今日はこの人に歩いてもらおう。

「ふたり焼肉はこれくらいの量かな」みたいな僕の目算が大きく狂う精肉コーナーを過ぎて、ジャカジャカとカゴに入っていくビールたち。
絞り出すようにあまりお酒が飲めない旨を伝え、お茶のコーナーへ。「ルイボスティー飲める?」と聞かれ、「スキデス」と答えたら1リットルのペットもカゴに追加された。重い。

こういうのだいたい出してたんだけど強い気持ちで割り勘にしてスーパーを後に。
これで二人分なの?ってくらい凄まじく重いビニールを抱えながら部屋へ戻り、すぐさま軽く乾杯し、肉を焼き始める。

とりあえず自分が菜箸を使い、用意されていたホットプレートで牛タンを4枚焼いた。直後、ものすごく衝撃的なことが起こる。

いい感じに焼けてきたので、「もういけそうだよ」と伝えた。

彼女はありがとうと言い、箸を掴む。

 

そして彼女は、牛タンを3枚取った。

そんなことある?????

俺は表情にこそ出さないものの、軽くパニックになっていた。

たくさんマッチした中で厳選し、やったことないゲームを買ってまでやっと親しくなった人。それがおそらく別人の写真を使用してアプリをやっていたとても巨大な女性。
大事な休日にその偽物の家にやって来て、どうやって穏便に帰るかだけ考えながら話す中身や進展のない会話。その渦中で逃げ道のように肉焼き係を買って出て、3枚取られていったこの異常な状況。

わかってると思うけど俺もたくさん食べたいだとかそんなケチな話をしてるわけじゃない。初対面の人が4枚焼いた肉を3枚取ることある!?という衝撃だ。
普通1か2じゃないの?なんか箸で器用に3枚回収していったけど3なことある?ないよね?

俺は驚きながらも、努めて冷静にハラミを6枚焼いた。きっとさっきは6だったと勘違いしたんだろう?ほら、今回は堂々と3いって大丈夫だよ。というメッセージを込めての6焼きだ。

 

彼女は、4枚取った。

おかしい。絶対おかしいこんなの。どうしても肉の格差が広がっていく。どうすればいい。

俺は知恵を絞り、カルビを5枚焼いた。
将棋のプロ同士が駒で会話をするように、口には出さずに肉で意図を伝えたかった。

5焼いて3取るなんて、普通の人でも全然起こりうることだ。俺はとにかく少しでも違和感を消したかったし、彼女にも元々感じてないと思うけど多く肉を取ってしまった罪悪感を与えたくなかった。5焼いて3は自然だ。普通のことだ。さあ焼けたぞ、3枚食べるんだ。5三肉だ。

 

 

彼女は、4枚取った。

 

わかる。わかるぞ。俺の肉に箸で応えてくれている。「もっと食べたい」と、伝わる。伝わるぞ。てめえで焼けや。

俺は煙草を吸うことにした。換気扇の下でもうどーでもいーやって思いながら吸ってた。どうして俺はアプリに月額を払って新小岩で知らない巨大な女に肉を焼いているんだろう。何であいつ一回も焼かないんだろう。どうしたら自然に穏便に家に帰れるだろう。

煙草から戻り、俺は残りの肉を焼き出した。4なら3 、6なら4と取られていくがもう驚かない。こっちが普通なのだと認識した。むしろ7焼いたとき4しか取られなくて驚いたくらいだ。

ちなみに1リットルのルイボスティーは彼女の真横に置かれ、500mlのをそうするようにゴキュゴキュと飲んでいた。なんでさっき俺にルイボスティー好きか聞いたんだろう。

 

「ねえごめん、ワンピースのアニメ観てたんだけど途中だったからそれだけ流していい?」

彼女は肉をモリモリ食べながらリモコンを操作していた。どうぞどうぞと答えてTVに目をやると残り1時間半って書いてあった。まさかその聞き方で映画版とはねと思いながらも口に出さず肉を焼く。

そうして、全ての肉を焼き終えた。本当に、俺一人が全て焼いた。7パック分焼いた。

「これラストね」

4枚のイチボを焼きながらそう伝え、3枚取るところを確認してからホットプレートの電源を落とす。
俺がゴミをまとめていると、彼女が何か言いたげにしていた。
なんだ?ああそうか、さすがに全部焼いたしゴミもまとめてるからね、感謝の言葉があってもおかしくない。
彼女は薄っすらと笑みを浮かべ、口を開いた。

 

 

「なんかマキヤくんって、モンハンでもよく肉焼いてたよね(笑)」

 

 

 

なんなのコイツ?????ねえ???

かぶりつきでワンピースを見ている彼女を横目に、穏便に帰る準備を始めた。夜が深くなるほど危ない。俺はホットプレートや皿を洗った。何してるんだろと思いながら洗って拭いた。
肉焼き場に戻るとワンピースもそろそろ終わりそうな感じだった。これが終わったら帰るかと、適当に座ったところ、彼女の腕がヌッと伸びてきて手を繋がれた。

めちゃくちゃ、手が分厚い。なんだこれ、手なのか。そういえば俺こんな大きい人と手を繋ぐの初めてだと思いながら視線を手に向ける。
握っているグーがすごく大きい。これもしジャンケンで出されたら俺がパーでも一瞬負けたと思うかもしれない。

そんな事を考えていたら思っていたより長く手を繋いでいたらしく、「泊まってっていいよ」とすごくありがたい許可を頂けた。

「ありがとう!そうしたいんだけど、パソコン家に忘れちゃって、明日仕事で使うから帰らないといけないんだ」

角を立てないで相手にダメージとか与えないでかつ確実に帰れる理由、肉を焼きながらずっと考えていたので言葉がスムーズに出てきた。

そそくさと、それはもうそそくさと退室し、帰り道で妹にモンハンあげるってLINEをして、新小岩駅に着いた。

駅は何故かすごく混んでいて、カニ歩きでホームの一番端まで行って帰りました。

 

スポンサーリンク