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僕が24歳の時、マッチングアプリで結婚したなんて体験談が流れてくることが多くなってきたころの話。
なんとなくダークなイメージを持っていた出会い系サイトは、新しいSNSみたいな爽やかさを放ち生まれ変わった。
「出会い系でいい感じの子が出来た」と豪語する後輩。そういうのに詳しい後輩に言われるがままに登録し、やり方を聞いていた。
「よくわかんないな」
「気になった子にメールするだけですよ」
「いやでも、業者とかサクラとかやばいのとか混ざってるんでしょ?」
「僕は当たったことないですけど」
「ちょっとどういうプロフィールの子が実際に連絡取れるのかとかわからないからさ、お前のその、いい感じになったって子のプロフィール見たいわ」
「あーなるほど」
「なんて検索すれば出る?」
「えーと、ハンドルネームが『巨乳』です」
それヤバいやつなんじゃないか
調べたらまた無数にヒットした。俺がマッチングアプリをインストールして一番最初にした検索は「巨乳」です。
ケラケラと笑って解散し、僕は仕事の日々に戻って一週間ほど経った休みの日。僕は忘れかけていたあのアプリを開いた。
放置していて、ろくにプロフィールも作っていないのに、メールがいくつか来ていた。
なんだ?と思って開く。「旦那が単身赴任で~」とか「サラリーマンを性で癒やすボランティアをしてる女子大生です!」とか、こんなのに引っかかる人間はいるんだろうかみたいな、「こんにちは!サクラです!」みたいなのが沢山来てた。どんなボランティアだ。貢献の気持ち高すぎだろ。
ただその中の1つ、住んでいる所近いんでお話しませんかと、LINEのIDが記載されたものがあった。
休日で暇だったこともあり、連絡を取ってみることにした。
ナツミちゃんという女性で、LINEのアイコンが自分の瞳のアップだったのでやばいかなと思ったが、会話は拍子抜けするほど普通に進んだ。また一週間が経った。ダラダラとLINEを続けていたら、今日暇なら夜ご飯でもいきましょうかと、ついに会うことになった。
僕はご飯が好きなので気になってるお店が多く、「行ってみたかったロシア料理のレストランがある」と伝えた所、すごく喜んでくれた。
ちょっとおめかしして池袋駅に着いた。
宝くじ売り場の前は人がとても多くて、電話をすると、声の高い女性が出た。僕はシンプルに尋ねた。
「今着きました。自分はグレーのジャケットを着てます。なつみさんはどんな服装ですか?」
その後の衝撃は今でも忘れない。
「私、ランドセル背負ってるからすぐわかると思うよ」
えー!!!
ってなった。ギャグ漫画みたいなリアクションになった。目も飛び出ていたのではないか。
職質?都条例?法律?拘置所?校長? 思考がぐるぐるする。どういうことだどういうことだ。わからない。
狂ったように辺りを見回す。
そして、
居た。
コスプレ用の綺麗なランドセルとかではない。
何年か使ったような風合いで、リコーダーも刺さっていた。
給食袋みたいな物までぶら下がっていた。
髪の毛は黄色いビーズみたいなゴムで、二つに結んでいて、
黒髪で、フリフリした感じの服を着た、
30歳くらいのめちゃくちゃ太った女が居た。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
血管に氷水を注がれたような悪寒が走る。
動けない。足が言うことを聞かない。どうすればいい。なんだあれ。普通に生きてても見ないぞあんなの。
僕は何故か、目を逸らすこともしなかった。真っ直ぐに、その異形を見ていた。
視線の先にいたランドセル女は身体の角度を変えず、フクロウのようにグルりと振り向いた。
目が合った。
足が震えた。
「あっ」みたいな顔をして、ノッシノッシと歩いてくる。
僕は動けなかった。逃げ出せなかった。
そして、対峙した。
何とか声を絞り出した。
「なつみさん、ですか?」
そりゃそうだろと思うかもしれないが、僕はまだ別人の可能性に懸けていた。
「初めましてー」
今日の終わりが始まった。
微妙な距離感覚を保ちながら、2人で駅を出る。
当時の池袋東口駅前は、居酒屋のキャッチがものすごかった。普通、男女2人で駅から出ようものなら蝗害の如くキャッチラッシュに遭うが、何故かその日は誰からも声をかけられなかった。
「ええ!?」みたいな感じでなつみちゃんを見た後、僕をチラリと見て、何とも言えない表情をした後に他の客の所に行ってしまう。普段ならキャッチは全部無視するのだが、その時はキャッチでも誰でもいいからどこかに連れて行ってくれという願いしか無かったので、もしキャッチをやってらっしゃる方がいたら足が震えている男性を狙うといいかもしれない。
頭が真っ白になった僕は、なつみちゃんを土間土間に連れて行った。
大学時代よく行っていたところだから、安心感で選んだ。ロシア料理の話は着席してから思い出した。
時間が早かったからか、ちょっと落ち着いた個室に案内された。もっとネットカフェのオープンスペースみたいなところでいいのに。
正面になつみちゃんがいる。インパクトがすごい。ここは本当に僕が大学時代よく行っていた土間土間なのだろうか。個室が妙に狭い。
店員さんがやってきた。なつみちゃんを二度見しながら
「今の時間なら2時間飲み放題が999円です~」
とマル得情報を伝えてくれた。やめてくれ。8分くらいで地面に穴が空いて外に出れるコースとかにしてくれ。
「あ、じゃあそれで~」
地獄は2時間以上が確定した。
仕方ない。自分で撒いた種だ。この子と色々お話したりとか、しよう。と決意する。
お通しで、何か豆腐みたいなのが来た、
「豆腐いりますか?」
なつみちゃんお通しをが突き出してくる
「豆腐嫌いなんですか?」
「んー。ってか、センスのない食べ物って嫌いなんですよね」
どうしよう、性格も悪い……
僕は普段絶対に頼まない、期間限定メニューのポトフを頼んだ。どう思われてもいい。二軒目とかになるわけにはいかない。僕は土間土間をロシア料理の店と認識しているヤバイ奴として今日を乗り切る。
お酒の味はよくわからなかったし、何故か全く食欲が沸かず、ポトフ程度すら食い切れぬまま時間が過ぎる。
なつみちゃんがランドセルをゴソゴソし始め、なんだなんだと注視していたら、水色の熊のぬいぐるみを取り出した。
僕の身体は鳥肌を思い出した。
「この子、ジェームズって言うんです」
「え? あ、はい」
「ほら、ジェームズ、マキヤくんに挨拶は?」
「『こんばんは!』」
「あ、はい……はじめ、まして」
「『はじめまして!』」
なつみちゃんが雑ないっこく堂みたいな事をしてくる。
それから30分、なつみちゃんに何を話しかけても無視され、ジェームズとしか話が出来ないこの世で一番無駄な時間を過ごすことになる。
俺は適応能力が高いので、「ジェームズからなつみちゃんにも言ってやってよ~」などと言うことで、間接的になつみちゃんと会話することに成功していた。
どれくらいの時が経ったのだろうかわからなくなってきた頃、個室の扉が開いた。
「ラストオーダーの時間です~☆」
「ありがとうございます!!」
嬉しすぎて感謝してしまった。
特に追加注文もせず、ではそろそろお開きに……という空気も形成されてきたその時、なつみちゃんがまた、ランドセルを漁りながら話しかけてきた。
「マキヤくんって、あのアプリで会った人と思えない。珍しい人種だね」
「え、そうですか……? 登録して間もないもので」
「うん。なんかLINEとかも、丁寧な感じ。でもそこがいいと思う」
「あ、ありがとうございます」
「でね、プレゼント持ってきたんだ。良かったら使って?」
「えっ」
プレゼント……?
なんだ……? 怖いけど、少し嬉しいな……でも怖い
なつみちゃんは、とても小さいジップロックみたいな物を取り出した。
中には透明な液体が入っていた。
「これは……?」
震えながら僕は尋ねた。
なつみちゃんは当然のように、普通の事のように、答えた。
「私がマキヤ君をイメージして作った、香水」
心臓がバックンッと跳ねた。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
震える手で受け取り、ジャケットのポケットに入れた。
今までこんなに早く動いたことないかもってくらいの動きで会計を済ませ、店を出た。
そしてついに、ついに土間土間から出ることに成功した。
外の空気が気持ちいい。なんか急にお腹も空いてきた。吉野家でもいくか!なんて考えながら、とりあえず駅までは送ろうと、大きな交差点の前で信号待ちをしていた。
信号がもうすぐ青に変わる。
その時、ジェームズが飛んできた。
なんだ? とジェームズをキャッチした瞬間、なつみちゃんが抱きついてきた!
!?!?!?!?!?!?!?
脳の処理能力を超えてしまった。ショートした。
僕は2秒ほど脱力した後、
「んんんあヴあぁぁお!!」
放ったことも無いような拒絶の声をあげ、全力でなつみちゃんを押し返した。めちゃくちゃ重かった。
恐怖で涙が溢れ、僕は全力で区役所まで走った。背後から聞こえる咆哮が、僕の加速装置になった。
走りきり、振り替えると異形の姿は見えなかった。
怖くて池袋駅には近づけず、別の駅まで歩いた。物理的にこの連投は不可能なのではと思えるくらいLINEが来ていたのでブロックした。ジャケットの中でジップロックがはじけたのか、異常に甘ったるい匂いを放ち続けるので電車に乗る前に捨てた。
今まで生きてきた中で一番怖かった。
普段絶対会えないような人と会えるのは、ネットにおける醍醐味の1つかもしれない。
このブログにはこの失敗談だけとしますので特にこれ以上出会い系の話はしませんが、ランドセル女からAV女優やアイドルまで幅広く会えたんで僕は楽しかったです。
登録していたサイトはPCMAXです↓
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