twister

それはインドにあったという

スポンサーリンク

 
モハメド様の契約は、本日中に書類を作成しないと更新にならなかった。

 

封筒や葉書で通知は行っているだろうし、電話でも一ヶ月以上前から何度も連絡をしていたのだが一向にお出にならず、全員が「契約は終了でいいのかな」といった認識になっていた。

そんな折、後10分くらいで今日の業務は終了という、そんな時間に「更新したいです!」と電話が入った。それならご来社頂く形になるのだが、「店は空けれない!!」と仰る。モハメド様はインドカレー屋を経営されていらっしゃるのだ。なので、誰かが、終業後、モハメド様の経営するカレー・ショップまで行って、iPadとかで書類をなんとかして、0時までに本部に送信しなくてはならないという状態になった。

僕たちは大いに困った。誰が対応するのか本気で揉めた。じゃんけんとかで決めればいいのにわざわざ箱から引くタイプのくじを作成したあたりから、みんながどれだけやりたくなかったかを察して頂ければと思う。

 

そして、すげえムカつくスマイルマークみたいなのが描かれた紙を引き当てた僕が終業後、モハメド様の所に向かう事になった。

 

 

幸いなことに自分が乗り換えで使ってる駅にその店はあったので、そこまで手間にはならなかった。ディナータイムからは少し外れた時間に着いたのだが、店内はまあまあ混んでいた。モハメド様が「すみません! 座って待っていてください!」と言うので、僕は大人しく待っていた。

 

店内はスパイスの匂いが立ち込め、目の前の女性がチーズナンだろうか、チーズをものすごく伸ばしながら妙に美味しそうな表情をするので、段々お腹が空いてきてしまった。見渡す限りまだ混んでおり、モハメド様も忙しそうにしていて書類の対応なんて出来る状態じゃ無さそうだったので、僕もカレーを注文することにした

メニューを見る。選べるカレーと選べるナンで800円(税込)か。絶対チーズナンにしよう。ここでノーマルナンにするやついるのか、いないだろ。お、+100円でセットになるのか。セットにするとサラダとドリンクが付いて来る。ドリンクは単品だと250円。セットだ。セットしかない。チキンバターカレーとチーズナン、サラダ、アイスコーヒーにしよう。これで900円。安い。会社の近くに出来てほしい。昼に食べたい

 

オーダーは決まって、僕は軽く手を上げモハメドさんを何度も呼び止めるのだが、どうも注文すると思われてないらしく「チョット待ってください!」「すみません待ってください!」「チョット待ってて!」と怒られてしまう。なんとか注文だとわかってもらい、モハメドさんは照れ笑いを浮かべ、厨房に戻っていった

 

 

クリームを一周した、綺麗な色のカレーセットが届く。カレーが完全に美味い。大当たりのカレーだ。チーズナンも巨大でチーズが入りまくりで、ハイジのトーストみたいにめっちゃ伸びる。かなりボリューミーで、食べきれるか不安になりながらも食べ進める。休憩的な位置づけのはずのサラダが確実に日本人の味覚に合わないドレッシングが使われており、これを食べきるのが最も苦しかった。

食後のアイスコーヒーはセットで出てきたものにしては全然美味しくて、250円ならおかわりしようかと思うくらいだった

 

 

食べ終わる頃には店内も落ち着いていた

 

「スミマセン! お待たせしました! これ、良かったらノンデ!」

エプロンを外したモハメドさんが申し訳なさそうに、ラッシーを2つ持って僕のテーブルに来た。

 

 

このインドの乳酸菌飲料みたいな飲み物、インドカレー屋に必ずあるが、いつもコーヒーとかコーラが優先されるのでほとんど飲んだ経験がなかった。せっかく頂いたので飲んでみるとかなり爽やかな味をしており、飲みやすい飲むヨーグルトみたいな感じだった。店によって濃さとか色々違うらしいのでやっぱりどうせコーラとか飲むと思うけど、悪くなかった

 

二人でラッシーを飲みながら、iPadとにらめっこして契約を更新出来るようにしていく。少してこずったが、無事、モハメド様の契約を更新することが出来た。

 

「これで、以上です!」

「マキヤさん! すみませんわざわざ来て頂いて! 注文もしてくれて! 本当に有難うございました!」

「いえいえ! わからないことあったら電話してくださいね!」

「今度はもう少し、余裕を持って更新します!

「それは、ぜひ、お願い致します!」

「アハハハハ」

「これにて失礼致します。すごく美味しかったです」

「アリガトウ! マタキテ!」

「来ます! お会計お願いします!」

「アリガトウ! レジへ!」

 

モハメド様とは謎に打ち解けた。普通に美味しかったし安いし、ちょうど乗り換えで使う駅だし、また全然来るの有りだな。

レジで財布を開く。自分は持ち歩く小銭が必ず最小限になるように普段お金を出すのだが、ちょうど900円があって珍しいなと思った。ピッタリの小銭を左手に入れて、右手で財布をしまうと、レジを打っていたモハメド様が口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1150円です」

 

 

 

 

……

 

……?

 

……!

 

……!!!

 

 

 

ラッシーィィィィ!!!

 

スポンサーリンク