ピュア子ちゃんは当時15歳で、僕が学生時代バイトをしていた寿司屋でも最年少の子だった。
今の世に珍しい、純粋さを持った子だった
バイトはほとんど大学生かフリーターの男性だったので、休憩室ではゲスゲスした話で盛り上がることが多かった。女子高生も何人か居たが、奴等は僕らが引くくらいゲスな話で応戦してきたりしてた
ただ、ピュア子ちゃんだけは下ネタが苦手なのか、顔を真っ赤にして、退室してしまうことが多かった
最初は気を使って僕らも下ネタを控えめにするなどの努力はしたのだが、ピュア子ちゃんのジャッジは異様に厳しく、「すね毛」という単語でも退室されてしまうので、僕らはすぐに諦めていた。
僕らが休憩室でケタケタ笑っている中、店の外のベンチで携帯をいじるピュア子ちゃん。
そんなすれ違いの日々が続いていた
よくないよなーとは思っていたそんなある日
「辞めちゃうと困るだろ! ちゃんと仲間に入れろ!」
語気を強めて、店長は言った。至極、真っ当な意見だ。
ただ、この人は先日「女性の身体に穴を開ける夢を見た」という話をしてピュア子ちゃんを退室させた張本人なので、お前よく言えたなという空気が休憩室に広がった。
インディアンポーカーの結果、とりあえず僕が、輪に入れるよう話してみることになった。
外のベンチに佇むピュア子に近づく。
「お疲れ様、外暑くない?」
「暑いです……」
「休憩室入りづらい?」
「苦手な話をしてるんで……」
「そうだよねー……やっぱ苦手?」
「はい、何か恥ずかしくなっちゃうんです。マキヤさんに気を使わせちゃって申し訳ないです」
「全然そんなことなくて、皆さ、ピュア子ちゃんと仲良くなりたいんだよね」
「え、絶対ウソじゃないですか、絶対嫌われてますよ私」
「そんなことない! 本当なんだよ、でもやっぱ退室されちゃうと、話せないので……」
「そうですよね……私も、出来れば、皆さんと仲良くしたいです」
「じゃあ僕らも下ネタみたいなの控えめにするから、ピュア子ちゃんも退室禁止でいこうよ!」
「わ、わかりました。でも、私、皆さんみたいにそういう話に対して何か言ったりとか出来ないですよ」
「無理に返す必要は無いよ」
「えー…… あ! でも、私、最近そういう話あります!」
「え、どんな話?」
「体育の授業で、友達が着替えてる時、ブ……し、下着がちゃんと合ってなかったみたいで、めっちゃ、見えちゃったんですよ」
「え、乳首が?」
「……はい」
「そういう話あいつら大好きだよ!話せばいいよ」
「えー……話せるかな……」
「今みたいな感じで、いってみよう、仲良くなろう!」
「わ、わかりました!」
そんなやり取りがあり、ピュア子ちゃんは休憩室に戻った
そして稼働後、5人くらい休憩室に居たので、話を振ってみた
「最近全然体動かしてないなー」
「あー俺も」
「身体動かす機会ってどんどん減りますよねー、ピュア子ちゃんは今体育で何やってるの?」
「え、あ、バレーボールです」
「いいねー」
僕が目で「いけ!」と合図する
ピュア子ちゃんは小さく頷いた
「あ、その、体育の授業って女子更衣室で着替えるじゃないですか」
「え? うんうん!」
女子更衣室という単語に、店長が食いつく。
いいぞ、いけ、こいつはそういう話が好きだ。
「で、その時、人によってはし、下着とか、見えるんですよ」
絞り出すように話すピュア子。
顔は真っ赤で染まり、手がプルプルしている。
僕らもスマホから目を離し、頑張って話すピュア子に集中していた。
「で、下着のサイズが合ってなかった子が、いて、」
ゴクリと店長がツバを飲む。
「危ないなと、思ったんですけど、その時、その子がかがんで……」
その場の全員が、現役女子高生から放たれる謎の話に夢中になっていた。
「その……し、下着が浮いて……」
僕たちは今、何を聞かされているんだろう。
この話を決して邪魔してはいけない
そんな空気が、場を支配していた
「その……中の……えっと……」
ピュア子ちゃんの顔が真紅に染まる
「えっと、だから、その、中の……」
彼女は、震える手をギュッと握りしめていた。
多分、「乳首」って単語を出せなかったのだと思います。
仮にも年上の男性たちに対して、そんな単語。
ずっとピュアで生きてきた彼女にはとても出せない単語だったのだと思います。
でも、ここまで話してしまった。
全員が食い入るようにピュア子ちゃんの話を聴いている。
そのワードを出さないと、話が進まない。その葛藤に苦しんでいたのだと思います。
どうするんだ、ピュア子。
ここが、正念場だぞ。
「なので……私の位置から、見えてしまったんです……その……」
頑張れ……ピュア子……!!
搾り出せ…!
「その子の……キイチゴが」
!?