進退運命論

      2017/05/24

森田から指定された店は、裏路地の分かり辛い所に在った。間に合う時間に駅に着いていたのだが、少し遅刻になってしまった。

 

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少し急ぐように、重厚な木の扉を引くと、少し暗めのBarが姿を表した。ゆっくりとしたジャズが流れる落ち着いた店内で、手前のカウンターにいた客のロック・グラスが間接照明に照らされて煌めいていた

少し見渡し、カウンターの端に森田を見つけた。軽く目が合い、彼は煙草を持った手をヒラヒラさせた

「ごめん、迷って少し遅れた」

「俺も今来たところだよ」

そう言って森田は煙草を咥える。遅れたことを気遣われてしまった。
ふと彼のグラスを見ると、氷が大分溶けていた。どうやら結構待たせてしまったようだ

 

「氷めっちゃ溶けてる……ごめんほんと、場所全然わからなくて」

「いやいや。これはロックで頼んだんだけどキツかったから、ずっとグラスを掴んでさ、手の熱で氷を溶かして、アルコールを薄めようとしただけだよ」

 

これも気遣い……?
何で飲めないのにロックで注文を……?
水割りにすれば……?

 

「今からでも水割りにしてくれるだろ」

「それは、ダサいだろ」

「ずっとグラス掴んでる方がダサくない?」

「ああ、手が痛い」

 

そんな会話をしながら、僕は喉が渇いていたのでマリブコークを注文した。

「マリブコークかよ、しまらねえな」

「手で氷を溶かす奴が何を言ってるんだ」

 

煙草に火を点け、話を聞く体制を作る。コイツは以前、ストレスか牡蠣かどっちが原因かわからない理由で会社を辞めて、確か転職をしていたはずだった

※参照記事

心身同化論

「で、急に呼び出してなんだよ」

「まあ……飲み物が着てから話すよ」

「そうだな……あ、高田さん結婚したらしいぜ」

「マジか、知らなかった」

「まあでも、結婚しそうだったよな」

「しっかりしてたからな」

「増えてきたよな、最近、周りで」

「そうだね、当たり前だけど皆、運命の時間が進んでるんだよな」

 

運命の時間ってなんだと思っていたら注文したマリブコークが届いた。白い花が添えられており、オシャレで飲みづらい。ただ絶妙なバランスで作られており、かなり飲みやすく、後味でしっかりココナッツの風味がする、凄く美味しい出来だった

 

「あ、美味しいわ」

マリブコークの白い花を、森田が見つめる

「……俺のコレと交換しないか?」

「しないよ、もはやそれはなんなんだよ」

「マッカランのロックだよ」

「地球温暖化のイメージ映像みたいな溶けかたしてるな」

「でもこれ、1900円するんだぜ」

「何で飲めないのに18年頼んだの?」

 

 

 

 

そういう気分だったんだよなんて言って、森田は語りだした

「この世の全ては、運命だと思うんだよね」

「あ、はい」

 

森田は精神を病んでいるんだなと察した。コイツはいつも、病むとオカルトな方向に進む。就活のときも勝ちの価値が上がる神社とかわけのわからん場所を巡ってた

 

 

「例えば今日お前がこの店に来たのだって、運命によって定められていたんだよ」

 

 

 

「いやお前がここに来いって言ったんだよ」

 

「それが運命なんだよ。いいか、俺らが大学で出会って無ければ、お前は今日ここにいないわけだ」

「そんなに遡るの?」

「もっとだ。大学だって、志望校を決めたのはいつだ?キッカケは?それがもしなかったら? お互い違う大学だった」

「まあ……そうなるね」

「あとマキヤは浪人してるだろ、受かってたら同級生じゃなかった。仲良くなっていなかった可能性もある」

「それは、そうだね」

「俺だって、高2の時見た深夜のドキュメンタリーがキッカケで志望校を固めたんだ。もしその日、早く寝ていたら? たったそれだけで、出会ってなかった。大きいこと、細かいこと、過去の数々の選択の上で、今日のこの日があるんだよ

「そうかも……しれない」

「だから全ては、運命なんだ。つまり、俺が転職した会社を昨日クビになったのも、運命

 

「!? まだ転職して2ヶ月くらいだろ!?」

「試用期間だから切りやすかったんじゃねえか? 運命なんだよ。運命……」

 

森田はそう言ってグラスを傾け、小さい声でウッと言った。

僕はチェイサーを注文した

 

「試用期間って言っても、そんな簡単にクビにならないだろ、何やったんだよ」

「何をやったとかじゃなくて、運命なんだよ。俺は一ヶ月の研修を終えて、現場に配属された。その時、同時に3人が配属される感じだったんだ」

「ああ」

「3人同時に自己紹介とかあるって聞いて、目立ちたくなかったから2番目になるように並んだんだ」

「うん」

「俺がもし目立ちたがりな性格だったら、1番か3番に並ぶだろ? もう運命の歯車は回ってたんだ」

「いやそんな、配属の自己紹介順くらいで回んないだろ歯車」

「自己紹介は無難に終わって、そこの上司と一緒に案件を担当させてもらったんだ。その時、自己紹介の順番で、あなたはこれ、きみはこれ、みたいな感じで振り分けられたんだ」

「もう担当するのか」

「前職とあんまり変わらないしな。それで、俺に振り分けられた案件の担当者の名前が”玉木”さんって人だったんだ」

「うん」

「もし玉木さんじゃなかったら、俺はクビになんて、なってなかった!」

「玉木さんが、何かしたのか」

「玉木さんは何もしてない。でも、玉木さんの両親が俺の運命を決めたとも言える」

「?? どういうことなんだ?」

「メールで、よろしくお願いしますみたいな挨拶をするんだよ」

「うん」

「それで、上司に倣ってCCとか入れてたら、玉木さんだけじゃなくその会社の人、なのかな、色んな名前が出てきたんだ」

「そうだろうな」

「俺は早く覚えたいと思ったんだ」

「うん」

 

 

 

 

 

 

「だからわかりやすいように玉木さんの名前をタマキン・スカイウォーカーってアドレス帳に登録したんだけど、玉木さんにメール送った時、こっちの登録名が表示されちゃったみたいで、上に報告が上がったて呼び出されたんだ」

 

 

 

 

 

「同情の余地が無い」

「著しくモラルに欠けるとか、社会人としての自覚とか、もっともらしい事ばっかり言われたわ」

「もっともだわ」

お前らが口から吐き出してるそれは、ただの正論だろ? って言ってやりたかったよ」

「いいんだよ、正論で」

「でもこれは、運命なんだよ! 担当者が玉木なんて名前じゃなかったら、俺はクビになってなかった」

「運命なら他の理由でクビになってたよ」

 

 

 

「俺は過去の選択から、玉木って名前の人はタマキン・スカイウォーカーって登録する運命になってたってことなんだろうな……」

 

 

 

そんな運命は嫌だ

 

 

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 - 日記