その胸の谷間を見たくなかった

   

大学生の頃、色々あって少しふさぎ込んでいた時期があった。何にもやる気がしなくて、余裕だと思っていた単位も結構ギリギリになって、講義もどこか上の空で聞いていた。レポートも「存在しない概念:幸せ」みたいなテーマにしてしまい、すげえ病んでる人みたいになってた

 

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それでもバイトには行かないといけないのだが、それは苦じゃなかった
僕は食べ物をバイクで配達するというバイトをしていたのだが、夜の街を1人で運転していればいいだけなので、気が楽だった。バイト先の人間関係にも恵まれていたので、結構笑ってしまうことも多かったから、バイトは癒やしだった。

とりあえず予約されていた時間帯の配達を終え、次の配達までの間、休憩室にいることにした。

 

「マキヤ君、どうしたの?」

僕のテンションが凄く低かったみたいで、同じく休憩していた先輩の平野さんという男性に心配された。平野さんは概念で表すなら「性欲」の人で、この人と会話をするとどんな話でも下ネタになる。しかも話しながら論理が飛躍するので後半誰もついていけなくなるという話術の持ち主で、落ち込んでいる時に会話する相手としてまあまあ不適切な人だった。ピュア子ちゃんの天敵だった。

でも平野さんは相当賢い大学に通っていた。もしかしたら、真面目な時は真面目になる人なのかもしれない。僕は平野さんに相談してみることにした。

 

「そっかそっか、なるほどね……」

平野さんはウンウンと頷きながら話を聞き、こう結論づけた

 

 

 

「そういう時は、おっパブに行った方がいいね。俺はそうしてる」

 

 

ダメだった。何で気分が落ち込んだらおっぱいパブに行くんだ情緒が不安定すぎるだろ。

軽く笑いながら、僕は次の配達に出発した

夜の風は気持ちがよく、ヘルメット内では僕の熱唱(POISON/布袋寅泰)がこだましていた

 

配達先ではベロンベロンに酔ったおっさんが出てきた。商品を渡していたら、おっさんが言う

 

 

「兄ちゃん、俺、なぞなぞ持ってるけど?」

 

 

だからなんだよ

と思うんですがどうも逃げられず、おっさんのなぞなぞに付き合わされることになった

 

 

「第1問! 快速電車は、男でしょうか、女でしょうか?」

 

嘘だろ……? 第1問……? まさか2問目以降があるのか……?
なぞなぞが連続する可能性に恐怖を覚えながら、問題を考える。快速電車の性別? なんだそれは? わからない。でもなぞなぞだから、知識とかじゃない、なんか簡単な、解くキッカケのようなものが、なんだろう。見た目か? 電車の連結部分は少し女性っぽい……? いやいやいや、特殊性癖の持ち主みたいな思考になっていた。危ない。快速電車か、ここが鍵だなきっと。ただの電車ではなく、快速電車、、、性別……? ダメだ、わからない。そして次の配達に行かなくてはいけない、悔しいが降参することにした

 

「すみません、わかりません」

「ガハハハ」

「答えだけ教えてください」

「男だよ! エキを飛ばすからな! ガハハ」

 

 

 

 

クソ下ネタだった。答えの完璧じゃない感じにモヤモヤイライラしながら最後の配達に向かう。第二問! とか言われなくて本当に良かった

 

 

全ての配達を終え、閉店となる。僕は休憩室の椅子に座り、ボーっとしていた。休憩室は椅子が少なく、遅れてきた人は畳に直接座る感じになる。その日も5人位が休憩室にいて、ダラダラと話したり、スマホをいじったりしていた

 

「今日暑くねー?」

更衣室から、窮屈そうにユキコちゃんが出てきた。ユキコちゃんは80kgくらいある名物女子高生で、偏差値は36だ。「女子高生がいるバイト先」という幻想を全てぶち壊すリーサルウェポンだ。廃棄の食材を、毎回すごく綺麗に全て食べきる事から”職人”と呼ばれている

いつもは制服姿で、「私、ボクサーパンツしか穿かないんで」とか出来ることなら聞きたくなかったと思わせるこだわりを持ち、何でスカートを短くしてるんだという感想を皆に抱かせて帰っていくのだが、その日は休日で、職人も私服姿だった。

私服姿もパンチが効いていて、フリフリしたワンピースを着てたのだが、胸元が恐ろしいくらいガッツリ空いていた。君たちが思ってる3倍は空いていた。グラビアDVDの最初の方で見るような、どこで使う用途の服なの? みたいな服だった

職人は僕の斜め前の畳に、ガサツに座ってあぐらをかいていた。平野さんは立ち上がり、上から胸元を覗き込んでいた。あ、この人なんでもいいんだと思った

 

僕は椅子に座っている。職人は斜め前の畳に座っている。この位置関係から、僕の位置からもガッツリと谷間が見えてしまっている状態でした。

その日は元々気分が落ち込んでおり、平野さんとなぞじじいのせいで精神的にかなり疲れていました。そんな時の太っている方の谷間とかって、少し嫌だったんですね。視界に入ってるだけで難癖とか付けられたらプライドズタズタですし、それを平野が覗き込んでいるのも妙にイラッとしました

 

もう服は着てきているから仕方ないとしても、なんか隠してほしい

そう願い、意を決して口にしました

 

「ユキコさん、胸、隠しなよ」

 

 

願いが通じ、職人は、「あっ」みたいな反応をして、タオルで胸を隠しました。平野は着席しました。

よかった。隠してくれた。僕はそう思って安堵しました

そして職人は、椅子に座っている僕を見上げて、こう言いました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー///」

 

 

 

 

 

 

いやっ!違うっ!違う違う違う違う!!

凄く嫌な勘違いをされた気がした

 

 

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