出会い系を使ってみたら、ランドセルを背負った子が来た話

   

人暮らしをしたばかりの頃、ぽっかりと、何かが足りない気持ちのまま眠ることが多かった

 

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東京に友達はいなくて、会社の人とはご飯に行きたくない。仕事が終わり、レトルトのカレーを買って帰り、狂ったように炊いて冷凍庫にストックしてあったご飯を温め、カレーをかけて、もさもさと食べる。TVもどこか味気ない。たまには普段と違うカレーをと思い買ったらペースト状のカレールゥだったみたいでゴボォッて吐いて、泣きそうになる。ネットもなんか楽しくなくて、ゲームもすぐ飽きてしまう。結局眠るしかすることがなくて、生きている理由を見い出せなくなっていた

ある日後輩のサイコパス吉崎から、近くのデニーズに居るから仕事終わったら来てくださいよー!と連絡が入る。彼は配達のバイト中、お客様の家の壁が白すぎたからという理由でそこに立ちションをしてクビになったような奴だ。そんな吉崎からの連絡ですら何かものすごく嬉しくて、今日は誰かとご飯が食べれる!と、ワクワクデニーズに向かった。

吉崎は就活中らしく、ご飯を食べながら自己分析を頑張っていた。君は分析するまでもなく異常者だよと相談に乗りつつメニューをパラパラと眺めていたら、吉崎が言う

 

「マキヤさん、”帰れま10”しましょう」

 

なんでだよ

※その店の人気商品ベスト10を当てるまで帰れないTV番組。注文したものは食べきる必要があるので、ベスト10以外を頼むとヤジが飛ぶ

 

「人気商品わからないだろ」

「僕、昔見たんで、だいたい覚えてます。さあ、どれを注文しますか!」

「じゃあとりあえずフライドポテトと……」

 

 

「フライドポテトは……37位です!」

「なんでだよ、すげえ人気ないじゃんポテト」

「いやー残念でしたね」

「てかお前何食ったの?」

「鰆の西京焼き膳です」

「何位なの?」

 

 

「確か……2位?」

「絶対そんなわけないだろ。そこまで上目指せるやつじゃないよ」

 

そんなくだらない会話をしながら、ケラケラと笑っていた。楽しかった。人と話すって重要だなと、なんとなく感じた

 

「どうすか一人暮らしは」

「毎日1人でカレーばっか食ってる。さみしいし、飽きる」

「マキヤさん次第じゃないですか……僕就活でよくこっち来るんで、またご飯行きましょうよ」

「そうしよう」

「ってかマキヤさん、出会い系やった方がいいんじゃないですか?」

「怖いし怪しいよ」

「それがですね、アプリになってて、かなり健全なんですよ。無料でも全然いけるんですよ。現に僕も今、いい感じの子とLINEしてるんですよ」

「すげーな。でもお前2014年に前略プロフが熱いとかよくわからないこと言ってたじゃん」

「今は出会いアプリですよ! ご飯付き合ってくれる人とかうじゃうじゃ見つかりますよ!」

 

出会いが欲しければ、アプリを落とす。スマホの多機能さにはいつも驚かされる。その場で検索させられたが、なんとなくダークなイメージを持っていた出会い系サイトが、なんか新しいSNSみたいな爽やかさがあった

 

「これです、このアプリです、ダウンロードしてください、いいですね、招待IDってところに今から僕が言う英数字を必ず入力してください。いえ僕にメリットがあるわけではなくて、というよりは、招待された方がポイントが多く貰えるんで、マキヤさんの事考えて、招待IDは入れたほうが良いです」

 

騙されている気分のまま、アプリをインストールして、吉崎のIDを入力した。ポイント制サイトというやつらしく、メールを送るのに○○ポイント、プロフィールを見るのに○○ポイント、みたいな感じで、すぐにポイントが無くなるから慎重に使ってくれと説明を受けた

吉崎が「よっしゃあ1000ポイント入った!! あざっす!」とか喜んでいる

 

僕の画面には 「ポイント 500」と表示されていて、アプリの画面には沢山の女の子のプロフィールがずらーっと表示されていた

「なにこれ、どうすればいいんだ」

「まず地域とか年齢とか絞ったほうがいいですよ。秋田県の60代とかまでヒットしちゃうんで」

「それナマハゲだよ」

 

住んでる付近の地域に設定し、同じくらいの年齢で絞ってみたが、プロフィールが多すぎてよくわからない

「よくわかんねえなー」

「気になった子にメールするだけですよ」

「いやでも、業者とかサクラとかやばいのとか混ざってるんでしょ?」

「その辺はフィーリングっすよ」

「ちょっとどういうプロフィールの子が実際に連絡取れるのかとかわからないからさ、吉崎のその、いい感じになったって子のプロフィール見たいわ」

「あーなるほど」

「なんて検索すれば出る?」

 

 

 

 

「えーと、ハンドルネームが『巨乳』です」

 

それヤバいやつなんじゃないか

調べたらまた無数にヒットした。出会い系のアプリインストールして一番最初にした検索が「巨乳」ってやべえなと思った

 

 

そして解散し、僕は仕事の日々に戻った。一週間ほど経った休みの日、僕は忘れかけていたあのアプリを開いた

放置していて、ろくにプロフィールも作っていないのに、メールが30通くらい来ていた。

なんだ?と思って開く、ちなみに開くのもポイントが使われていく。「旦那が単身赴任で~」とか「サラリーマンを性で癒やすボランティアをしてる女子大生です!」とか、こんなのに引っかかる人間はいるんだろうかみたいな、「こんにちは!サクラです!」みたいなのが沢山来てた。どんなボランティアだ。貢献の気持ち高すぎだろ

ただその中の1つ、住んでいる所近いんでお話しませんかと、LINEのIDが記載されたものがあった。

 

休日で暇だったこともあり、連絡を取ってみることにした

ナツミちゃんという女性で、LINEのアイコンが自分の瞳のアップだったのでやばいかなと思ったが、会話は拍子抜けするほど普通に進んだ。

また一週間が経った。ダラダラとLINEを続けていたら、今日暇なら夜ご飯でもいきましょうかと、ついに会うことになった。

「行ってみたかった北欧料理の店がある」と伝えた所、すごく喜んでくれた

 

 

ちょっとおめかしして池袋駅に着いた

宝くじ売り場の前は人がとても多くて、電話をすると、声の高い女性が出た。僕はシンプルに尋ねた

 

「今着きました。自分はグレーのジャケットを着てます。なつみさんはどんな服装ですか?」

 

 

 

その後の衝撃は今でも忘れない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、ランドセル背負ってるからすぐわかると思うよ」

 

 

 

えー!!!ってなった。ギャグ漫画みたいなリアクションになった
職質?都条例?法律?拘置所?校長?みたいに思考がぐるぐるする。どういうことだどういうことだ。わからない。

狂ったように辺りを見回す。

そして

居た

 
コスプレ用の綺麗なランドセルとかではない

 

何年か使ったような風合いで、リコーダーも刺さっていた

 

給食袋みたいな物までぶら下がっていた

 

髪の毛は黄色いビーズみたいなゴムで、二つに結んでいて

 

黒髪で、フリフリした感じの服を着た

 

 

 

 

30歳くらいのめちゃくちゃ太った女が居た

 

 

 

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい

血管に氷水を注がれたような悪寒が走る。動けない。足が言うことを聞かない。どうすればいい。なんだあれ、普通に生きてても見ないぞあんなの

そして、ランドセルの女はフクロウのようにグルリと振り向いた。

 

目が合った

 

足が震えた

 

「あっ」みたいな顔をして真っ直ぐ歩いてくる。音を当てはめるならノッシノッシが適切だろう

 

僕は動けなかった

 

そして、対峙した

 

何とか声を絞り出した

 

「なつみさん、ですか?」

 

そりゃそうだろと思うかもしれませんが、僕はまだ別人の可能性に懸けていた。だからその次の言葉は、僕の心を簡単にへし折った

 

 

 

「初めまして」

 

 

終わりの始まりとは、こういう事を言うのだろう

 

僕は微妙な距離感覚を保ちながら、2人で駅を出た

 

当時の池袋東口駅前は、居酒屋のキャッチがものすごかった。普通、男女2人で駅から出ようものなら蝗害の如くラッシュに遭うが、その日は誰からも声をかけられなかった。「ええ!?」みたいな感じでなつみちゃんを見た後、僕をチラリと見て、他の客の所に行ってしまう。普段ならキャッチは全部無視するのだが、その時はキャッチでも誰でもいいからここではないどこかに連れて行ってくれという願いしか無かったので、もしキャッチをやってらっしゃる方がいたら足が震えている男性を狙うといいかもしれません

頭が真っ白になっていた僕は、なつみちゃんを土間土間に連れて行った。

大学時代よく行っていたところだから、安心感で選んだ。北欧料理のくだりは全て忘れてくれと思った

 

時間が早かったからか、ガッツリ個室に案内された。もっとネットカフェのオープンスペースみたいなところでいいのにと思った

正面になつみちゃんがいる。インパクトがすごい。ここは本当に僕が大学時代よく行っていた土間土間なのだろうか。個室が妙に狭い。

店員さんがやってきた。なつみちゃんを二度見して

「今の時間なら2時間飲み放題が999円です~☆」

とマル得情報を伝えてくれた。やめてくれと思った。8分くらいで地面に穴が空いて強制退席になるコースとかにしてくれと思った

 

「あ、じゃあそれで」

 

地獄は、2時間以上が確定した

仕方ない。自分で撒いた種だ。この子と色々お話したりとか、しよう。と決意する

 

お通しで、何か豆腐みたいなのが着た

「豆腐いりますか?」

なつみちゃんお通しをが突き出してくる

「豆腐嫌いなんですか?」

僕は尋ねた

「んー。ってか、センスのない食べ物って嫌いなんですよね」

 

 

どうしよう、性格も悪い……あ、でもこれは、俺が会う前に北欧料理がどうとか言ったからか。仕方ない、と、僕は普段絶対に頼まないポトフ的なものを頼んだ。どう思われてもいい。二軒目とかになるわけにはいかない。僕は土間土間を北欧料理の店と認識しているヤバイ奴として今日を乗り切る

 

お酒の味はよくわからなかったし、何故か全く食欲が沸かず、ポトフ程度すら食い切れないまま時間が過ぎる

なつみちゃんがランドセルをゴソゴソし始め、なんだなんだと注視していたら、水色の熊のぬいぐるみを取り出した

僕の身体は鳥肌を思い出した

 

「この子、ジェームズって言うんです」

「え? あ、はい」

「ほら、ジェームズ、マキヤくんに挨拶は?」

「『こんばんわ!』」

「あ、はい……はじめ、まして」

「『はじめまして!』」

 

なつみちゃんがいっこく堂みたいな事をしてくる

その後、なつみちゃんに何を話しかけても無視され、ジェームズを経由しないと会話が出来ない不毛な時間を過ごすことになる

脳みそがおかしくなりそうだった

どれくらいの時が経ったのだろうかわからなくなってきた頃、個室の扉が開いた

 

 

「ラストオーダーの時間です~☆」

 

「ありがとうございます!!」

 

嬉しすぎて感謝してしまった

特に追加注文もせず、ではそろそろお開きに……という空気も形成されてきたその時、なつみちゃんがまた、ランドセルを漁りながら話しかけてきた

「マキヤくんって、あのアプリで会った人と思えない。珍しい人種だね」

「え、そうですか……? 登録して間もないもので」

「うん。なんかLINEとかも、丁寧な感じ。でもそこがいいと思う」

「あ、ありがとうございます」

「でね、プレゼント持ってきたんだ。良かったら使って?」

「えっ」

 

プレゼント……?

なんだ……? 怖いけど、何故か少し嬉しい……でも怖い

 

 

 

なつみちゃんは、とても小さいジップロックみたいな物を取り出した

 

中には透明な液体が入っていた

 

「これは……?」

 

震えながら僕は尋ねた

 

なつみちゃんは当然のように、普通の事のように、答えた

 

 

 

 

 

 

 

「私がマキヤ君をイメージして作った、香水」

 

 

 

心臓がバックンッと跳ねた。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

「あ、あ、ありがと、う」

 

震える手で受け取り、ジャケットのポケットに入れた

今までこんなに早く動いたことないかもってくらいの動きで会計を済ませ、店を出た

 

ついに、ついに夜の街に解放された……!

 

※その瞬間の僕 イメージ図

 

外の空気が気持ちいい。なんか急にお腹も空いてきた。吉野家でもいくか!なんて考えながら、とりあえず駅までは送るかと、大きな交差点の前で信号待ちをしていた

 

信号がもうすぐ青に変わる。

その時、ジェームズが飛んできた

なんだ? とジェームズをキャッチした瞬間、なつみちゃんが抱きついてきた!

 

 

!?!?!?!?!?!?!?

 

脳の処理能力を超えてしまった。ショートした気がした

僕は2秒ほど脱力した後、

 

 

 

「んんんあヴあぁぁお!!」

 

放ったことも無いような拒絶の声をあげ、全力でなつみちゃんを押し返した。めちゃくちゃ重かった

恐怖で涙が溢れ、僕は全力で区役所まで走った。背後から聞こえる咆哮が、僕の加速装置になった
走りきり、振り替えると異形の姿は見えなかった

怖くて池袋駅には近づけず、別の駅まで歩いた。物理的にこの連投は不可能なのではと思えるくらいLINEが来ていたのでブロックした。ジャケットの中で香水がはじけて、異常に甘ったるい匂いを放ち続けるので電車に乗る前に捨てた。俺のイメージどうなってんだ

ずっと鳥肌が立っていたのは、上着が無くて肌寒かったからでしょうか

今まで生きてきた中で一番怖かった

 

帰宅し、吉崎に電話をした

すごい目に遭ったぞと

だけれど吉崎はどこか生返事だった

どうした? と尋ねたら

 

 

「美人局に遭いました」

 

 

 

 

僕はまだましだったのかもしれない

 

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 - 日記