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大学3年の終わり頃、とあるコンクールに落選した。
ちょっといいところまで進んでた事も有り、悔しかった。
でもその感情は一瞬だった。
大賞を獲った作品を読んでいたら
「ああ、俺のより全然いいな」
って思えてしまって、なんとなく納得してしまった。納得してなかったのかもしれないけれど。納得したと思っていた
「就活、するのかー」
実感があまりなかった。賞を獲ってそういう方向に進むつもりだったから、何をすればいいかもよくわからなかった。就職に熱心な友人たちは夏ごろから準備を始めていて、12月のスタートからリクナビとかマイナビとか色々やってたから、少し遅いスタートになった
一緒のスタートではない事に、不安を感じた。同じ位置から、同じように頑張る仲間が欲しかった。ダイエット仲間募集とか言ってる連中と同じ思考回路かもしれない。1人でやればいいのにと思っても本人はわかっていない。
真面目な大学の友人達とはスタートがズレてしまったので、不真面目なバイト先の友人に活路を見出した。
バイトリーダーの大芝は同い年だ。バイト女子高生の私服を勝手に着てふざけていたらガチ泣きされて周囲から責め立てられて「最近、店に居づらいんだ」と言っていた彼も、就活とかしてるんだろうか。もしもうバリバリやっていたら嫌だな。でもああいう奴に限って真面目にコツコツやっているのかもしれない。
休憩時間、大芝とはいつものようにくだらない話をして笑い合っていた。
こんなに普通に話せる友人に、就活の状況をなかなか尋ねる事ができない。ビビっているのかもしれない
もし「もう30社エントリーしたよ。明日は二次面接」とか言われたら正気を保てる気がしない。そんな奴じゃないって信じたい。「就活ってみんなしないといけないの?」くらいの返答が欲しい。一言で安心させてほしい。
「就活始まって3ヶ月経つなー」
ぼやくように言ってみた。大芝の目は見ないで言った。「もうやっている」なんて拒絶の言葉を、目を見て聞ける気がしなかった。不自然に壁の方を見ながら、大芝の反応を待った
「え? 俺はまだ始まってないよ?」
大芝ぁ!(ガシッ)
信じてた。友を信じてよかった
僕と大芝は固い握手を交わし、僕達の就活は3ヶ月ほど遅れてスタートした
大芝は設計とかそういう分野の大学に居たので、選ぶ会社とかは全然違うのだが、自己分析やSPIなんかを、休憩中一緒にやったりしていた。
一緒に始めて、一緒に頑張る仲間がいるというのは、やはり安心感があった。
1ヶ月ほど経ち、説明会やSPI程度なら慣れてきた頃、大芝は目を輝かせて僕のところに来た
「マキヤくん、リクルートラブって知ってるかい?」
「いや、なんですそれは」
「就活中の女の子ってさ、黒髪で、化粧薄めで、1つに束ねちゃったりしてて、会社の目があるから丁寧で優しくて、なによりリクルートスーツで凄く可愛いよね!」
「また女子高生に嫌われるよ」
「そんな就活ガールたちとね、説明会とかディスカッションとかで仲良くなって、付き合えるんだよ!」
「いやそんなうまくいかないでしょ、就活中なんて話すタイミング限られるし」
「いやいや、有るからリクルートラブ。就活はみんな不安なんだよ。同じ悩みを共有出来る恋人が欲しい人だっていっぱいいるはずだ。そう思うだろ?」
ハッとした
確かに俺は就活が遅れて不安だったから、同じくらいの位置にいる大芝に頼った
みんなそうなのかもしれない。就活という先が見えない闇の中、不安の置き場所が必要なのかもしれない。
それが恋人になるのはまやかしかもしれないけれど、大芝だって不安なのだろう。正しいことのようにも思える
ただ大芝の行くような業界は、予約がほとんど男性で埋まるようなところだったはずだが……
「現に僕は、グループディスカッション後に一緒のチームだった男を誘って、ご飯に行ってLINEを交換してるからね?」
「え? ラブってそういう事?」
「違うよ! 男は練習だよ! これをただ女の子にするだけだよ? 付き合えるんだよ?」
「LINEくらいなら聞けるかもしれないけど、グループディスカッションで好みの子と同じグループになれる確率って相当低いぞ」
「例え好みじゃなくても、就活生と付き合えるんだよ?」
就活生をなんだと思ってるんだよ。モデルと付き合えるんだよ?くらいのテンションで来るんじゃねえよ。お前も就活生なんだぞ。みんなしばらくしたら就活生じゃなくなるんだぞ。就活の不安を共有するための存在が欲しいだけなのか。就活が終わったらどうなるんだその関係性は
「リクルートラブの記事とか読んでたから、昨日はSPIとか出来なかったよー」
本末転倒ってこういう事を言うんだ。普通の就職活動をしていく上で行われるものじゃないのか。どうして人生がかかっているのにそんな事が出来るんだ。「自分が設計したものが、使われたら絶対嬉しいよなー!」ってキラキラ話してたあの大芝はドコに行ってしまったんだ
「とはいえ、あくまでリクルートラブは就活の付属品みたいなもんだから、就活頑張らなきゃいけなんだけどね」
「ああ、そうだね」
「さっき、気になる所あったから1社、説明会を予約したよ」
「……どこの?」
「京都きもの友禅」
ラブに寄りすぎだろ
ゲージがラブに振り切れてるじゃねえか
その後、大芝は京都きもの友禅の説明会に張り切って1番に並び、1番前の席になったことで誰とも話せず帰ってきた
僕は、同じように春頃から就活を始めた森田と熱心に就職活動をして、無事に内定をたくさん手に入れた
大芝もなんか秋くらいに内定を手にしていた
設計志望で入社した大芝は男しかいない30人の会社で、今、立派に人事部をやっている
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