進退運命論
森田から指定された店は、裏路地の分かり辛い所に在った。間に合う時間に駅に着いていたのだが、少し遅刻になってしまった。
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少し急ぐように、重厚な木の扉を引くと、少し暗めのBarが姿を表した。ゆっくりとしたジャズが流れる落ち着いた店内で、手前のカウンターにいた客のロック・グラスが間接照明に照らされて煌めいていた
少し見渡し、カウンターの端に森田を見つけた。軽く目が合い、彼は煙草を持った手をヒラヒラさせた
「ごめん、迷って少し遅れた」
「俺も今来たところだよ」
そう言って森田は煙草を咥える。遅れたことを気遣われてしまった。
ふと彼のグラスを見ると、氷が大分溶けていた。どうやら結構待たせてしまったようだ
「氷めっちゃ溶けてる……ごめんほんと、場所全然わからなくて」
「いやいや。これはロックで頼んだんだけどキツかったから、ずっとグラスを掴んでさ、手の熱で氷を溶かして、アルコールを薄めようとしただけだよ」
これも気遣い……?
何で飲めないのにロックで注文を……?
水割りにすれば……?
「今からでも水割りにしてくれるだろ」
「それは、ダサいだろ」
「ずっとグラス掴んでる方がダサくない?」
「ああ、手が痛い」
そんな会話をしながら、僕は喉が渇いていたのでマリブコークを注文した。
「マリブコークかよ、しまらねえな」
「手で氷を溶かす奴が何を言ってるんだ」
煙草に火を点け、話を聞く体制を作る。コイツは以前、ストレスか牡蠣かどっちが原因かわからない理由で会社を辞めて、確か転職をしていたはずだった
※参照記事
「で、急に呼び出してなんだよ」
「まあ……飲み物が着てから話すよ」
「そうだな……あ、高田さん結婚したらしいぜ」
「マジか、知らなかった」
「まあでも、結婚しそうだったよな」
「しっかりしてたからな」
「増えてきたよな、最近、周りで」
「そうだね、当たり前だけど皆、運命の時間が進んでるんだよな」
運命の時間ってなんだと思っていたら注文したマリブコークが届いた。白い花が添えられており、オシャレで飲みづらい。ただ絶妙なバランスで作られており、かなり飲みやすく、後味でしっかりココナッツの風味がする、凄く美味しい出来だった
「あ、美味しいわ」
マリブコークの白い花を、森田が見つめる
「……俺のコレと交換しないか?」
「しないよ、もはやそれはなんなんだよ」
「マッカランのロックだよ」
「地球温暖化のイメージ映像みたいな溶けかたしてるな」
「でもこれ、1900円するんだぜ」
「何で飲めないのに18年頼んだの?」
そういう気分だったんだよなんて言って、森田は語りだした
「この世の全ては、運命だと思うんだよね」
「あ、はい」
森田は精神を病んでいるんだなと察した。コイツはいつも、病むとオカルトな方向に進む。就活のときも勝ちの価値が上がる神社とかわけのわからん場所を巡ってた
「例えば今日お前がこの店に来たのだって、運命によって定められていたんだよ」
「いやお前がここに来いって言ったんだよ」
「それが運命なんだよ。いいか、俺らが大学で出会って無ければ、お前は今日ここにいないわけだ」
「そんなに遡るの?」
「もっとだ。大学だって、志望校を決めたのはいつだ?キッカケは?それがもしなかったら? お互い違う大学だった」
「まあ……そうなるね」
「あとマキヤは浪人してるだろ、受かってたら同級生じゃなかった。仲良くなっていなかった可能性もある」
「それは、そうだね」
「俺だって、高2の時見た深夜のドキュメンタリーがキッカケで志望校を固めたんだ。もしその日、早く寝ていたら? たったそれだけで、出会ってなかった。大きいこと、細かいこと、過去の数々の選択の上で、今日のこの日があるんだよ」
「そうかも……しれない」
「だから全ては、運命なんだ。つまり、俺が転職した会社を昨日クビになったのも、運命」
「!? まだ転職して2ヶ月くらいだろ!?」
「試用期間だから切りやすかったんじゃねえか? 運命なんだよ。運命……」
森田はそう言ってグラスを傾け、小さい声でウッと言った。
僕はチェイサーを注文した
「試用期間って言っても、そんな簡単にクビにならないだろ、何やったんだよ」
「何をやったとかじゃなくて、運命なんだよ。俺は一ヶ月の研修を終えて、現場に配属された。その時、同時に3人が配属される感じだったんだ」
「ああ」
「3人同時に自己紹介とかあるって聞いて、目立ちたくなかったから2番目になるように並んだんだ」
「うん」
「俺がもし目立ちたがりな性格だったら、1番か3番に並ぶだろ? もう運命の歯車は回ってたんだ」
「いやそんな、配属の自己紹介順くらいで回んないだろ歯車」
「自己紹介は無難に終わって、そこの上司と一緒に案件を担当させてもらったんだ。その時、自己紹介の順番で、あなたはこれ、きみはこれ、みたいな感じで振り分けられたんだ」
「もう担当するのか」
「前職とあんまり変わらないしな。それで、俺に振り分けられた案件の担当者の名前が”玉木”さんって人だったんだ」
「うん」
「もし玉木さんじゃなかったら、俺はクビになんて、なってなかった!」
「玉木さんが、何かしたのか」
「玉木さんは何もしてない。でも、玉木さんの両親が俺の運命を決めたとも言える」
「?? どういうことなんだ?」
「メールで、よろしくお願いしますみたいな挨拶をするんだよ」
「うん」
「それで、上司に倣ってCCとか入れてたら、玉木さんだけじゃなくその会社の人、なのかな、色んな名前が出てきたんだ」
「そうだろうな」
「俺は早く覚えたいと思ったんだ」
「うん」
「だからわかりやすいように玉木さんの名前をタマキン・スカイウォーカーってアドレス帳に登録したんだけど、玉木さんにメール送った時、こっちの登録名が表示されちゃったみたいで、上に報告が上がったて呼び出されたんだ」
「同情の余地が無い」
「著しくモラルに欠けるとか、社会人としての自覚とか、もっともらしい事ばっかり言われたわ」
「もっともだわ」
「お前らが口から吐き出してるそれは、ただの正論だろ? って言ってやりたかったよ」
「いいんだよ、正論で」
「でもこれは、運命なんだよ! 担当者が玉木なんて名前じゃなかったら、俺はクビになってなかった」
「運命なら他の理由でクビになってたよ」
「俺は過去の選択から、玉木って名前の人はタマキン・スカイウォーカーって登録する運命になってたってことなんだろうな……」
そんな運命は嫌だ
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Comment
登録センス無さすぎ←森田さん笑
私はスマホの電話帳登録は名前でしてるけど、電話帳のプロフ画像に写真が無い人には、その人をイメージしたポケモン画像入れてます。
なので超不潔っぽい先生とかベトベトンを入れてます。
森田さんもそうしておけば仕事辞めなくて良かったのに。
ちなみに私のスマホにマキヤさんがいたらタケシ←サトシの旅仲間の画像入れちゃうかなー←イメージです笑
モルフォンが好きなのでモルフォンでお願いします
タケシのイメージは完全に消し去ってください!シゲルとかにしましょう!
森田さん最高過ぎます笑
次回のマキヤさんのブログも楽しみにしてます!
いつもオシャレなバーで変な話をしてます
ありがとうございます!なるべく更新します!
玉木さんと名前が出た時になんかこれありそうだな…と感じてはいましたが、
タマキン・スカイウォーカーと太字で出てきた瞬間「うそだろw」とひとりで笑ってしまいました。(笑)
語呂良いしなぜか爽やか?さえもあり、本当最高のアダ名ですね。(笑)
予想の斜め上が来ると気持ちいいですよね、そんな記事が理想です
爽やかですよね、仕事できそう
担当の名前が「玉木さん」だったあたりでタマキンオチは想像できたんですがそこからさらに一歩捻ってあって森田さんヤバイwwww
タマキンオチ……玉木さんって名前がそういう運命なんですかね……!
手で氷を溶かす…w
一体、何のプライド(笑)
今後、玉木さんって人に出会ったら、タマキン•スカイウォーカーって、呼んでしまいそう。確かに分かりやすいけどw
これで私も、運命の歯車の一部です!笑
これで私も、運命の歯車の一部です!笑
ってめちゃくちゃいいセリフじゃないですか!?素晴らしいと思います
囚われてしまいましたね……タマキンの環に……
有り難うございます。運命共同体なので、もう抗えないです。笑
タマキンリング…!!
なんかやだw 絶対、クビになる!
勝ちの価値上げて、負けないようにしま~す。
もう逃れられません……玉木さんと出会う度に、脳裏はもう……
そして勝ちの価値で調べるとパチンコ屋さんが沢山出てきます
就活の闇に飲まれ死にそうになる度にここの記事を読んでます!森田さんつよいー!!就活ネタあったらお願いします
闇に飲まれそうになりますよね!頑張って下さい!
織部と森田以外にあったかなー、、僕がグループディスカッションで無双した話くらいしかないかも、、(記事にならない)
いつも面白い記事ありがとうございますm(_ _)m
楽しく読ませてもらってますが、今回はいつも以上に面白かったため思わずコメントしてしまいました。
これも、運命ですか!?
お読み頂きありがとうございます
やったー!
そうです、記事が良かったらコメントしてしまう運命の環に、ようこそ……!
ほんとう、いつも面白いです。
一人で読んでてめちゃくちゃ笑ってしまいました。スカイウォーカーって何ですか。タマキンだけでもやばいのに、何故スカイウォーカーを…
良かったです、ぜひまた読んでください:-)
なんか仕事出来そうですよね、玉木さん