アゴマツゲと造花

      2017/04/23

お正月は実家で過ごしていた

2日の夜は、家族でトランプをした。父親が、初めて大富豪をやる人みたいなテンションではしゃいでおり、8切りの時必ずちょっとドヤ顔で「矢切の渡し!ふふっ」みたいに言ってくるからとてもうざかった。僕と妹はそれに深夜3時まで付き合わされていた。そもそもトランプをしようと言ってきた母と弟はすぐに離脱して寝ていた

まあでも3日は予定もない。しんしんと惰眠を貪って、お前生きてない、死んでないだけみたいな状態で過ごそうと思っていた

そして翌朝7時、ゆとり教育より産み落とされし狂った後輩、配達のバイトでお客様の家に立ちションをしてクビになった生まれつきサイコパス、吉崎から着信が入る

 

「マキヤさん! 昼キャバいきましょう!」

 

頭おかしいんじゃねえか

「今何時だと思ってんの……お前……」

「僕もさっき起きたところですよ!!」

なんで起きてすぐの1月3日に昼キャバクラに行きたいと思えるんだ。もっと寝たいとか喉乾いたとかお腹すいたとかじゃないのか。三代欲求のゲージが1つに振り切れてるじゃねえか
お酒もキャバクラも全然好きじゃないので、電話を切って寝た
午前11時、彼は車で僕の実家まで来た。どんだけ行きたかったんだ

目がちゃんと開いてない僕を乗せて、吉崎のデミオは千葉の田舎を駆け抜ける

「あけましておめでとうございます!」

「うん……おめでとう……」

「飲むんで、一旦僕の家で車置いて、そこから電車で向かいましょう!」

「うん……お前って……凄いよな……」

そして、この辺りでは一番繁華街っぽいところに着いた

まだお正月だからか、ほとんどの店はシャッターが降りていた。パッと見、寂しい廃れた雰囲気だが、ここらは4日以降バリバリ営業するので、都内じゃないから規制されていないのかなんなのか、信じられないくらいうざいキャッチも大量発生する。そのカリソメの荒廃をした町の姿が、職場では静かな後輩で通ってる吉崎の様だった

とりあえず気になっていることは、昼キャバクラなんかが営業してる雰囲気が1ミリも無いことだ

 

「3日に営業なんかしてるの?」

「さっき電車で調べたんですが、1つやってるとこありましたよ! ふふふ」

そうか、じゃあ朝俺に電話かけてきた段階では未確定だったんだな
ようやく脳も起きてきた。普通の店は4日くらいから営業するはずなわけだ。まともなキャストも4日まではお休みするわけだ。つまり、普通じゃない店で、まともじゃないキャストに当たる可能性が、とても高い

「絶対可愛い子とかいないぞ」

「いいんですよ、そんなの。僕はただ、女の子とお酒が飲みたいだけなんです」

「友達とか居るだろ……」

「いやいやマキヤさん、アポ無しで1月3日に朝から飲める女の子って、なかなか」

「アポ無し前提だからでは……」

「でも、今からいくキャバクラ、正月割引で1時間飲み放題1500円ですよ!?」

なんでその店はそこまでして営業したいんだよ

 

「僕はどんな女の子が来ても、超ロマンチストキャラでいきますよ!」

「1500円払うから店内で1時間寝れないかな……」

テンションの差が埋まることは無く、目的地に到着した

入り口らへんのホワイトボードに手書きで「昼キャバやってます セット1500」とか書かれてて、あ、マジなんだ。と安心と不安が心に同居する

やけに重い扉を押して、僕らは闇に身を投じた

「2名様ご来店ーーー!」

 

ここだけ夜なのかもしれないと思わせるような、暗い店内。先客が2組くらい、いらっしゃった

異常に柔らかいソファー席に腰を下ろす。ここで寝たら気持ちいいけど相当腰を悪くしそうだ何て思いつつも、お店の雰囲気に、少しだけソワソワした気持ちがする。それを隠すように煙草に火を点け、キャストを待った

どんな子が来るのだろう。千葉+田舎+昼+正月+1500円の悪魔のポーカーで来る子ってなんなんだろう。バック半分貰えるにしても、セットのみの客なら時給750円なのでは。向かいのファミマのが稼げるんじゃないか

色々余計なことを考えていたら、将棋駒みたいなのが2体並んでやってきた。飛車角落ちは6段差だったっけなとか思いながら眺めてたら自分らの所に向かってきてビックリした

僕の隣に座った飛車は、GEOのベテランみたいな店員より愛想が悪かった

吉崎の方には、僕らが後にアゴマツゲと呼ぶことになる女性が、マンガなら「ドスン!」と音を立てるように座った。花王のロゴみたいな横顔だった
無愛想すぎてこっちが笑っちゃいそうになったが、せっかくなのでいろんな話を飛車に試してみる事にした

「話」は多く所持してる。自分に降りかかった出来事を、起承転結のバランスが合うように構成したものだ。しょっちゅう友達とか同僚には話すわけで、その中で洗練されてもいくのだが、たまにすごく不安になる時がある。「こいつは友達だから笑ってくれてるのでは」と。だから、全く自分のことを知らない人に、話してみたくなる時がある

ただ、客観的な評価が欲しいとかでは全く無くて、知らない人でも笑わせられるという事実が欲しいだけなのだ。知らない人と通話が出来る出会い系みたいなアプリで、男をずっと笑わせたりとかしてたこともある

僕は時間が許す限り、不愛想な飛車に話をした。雰囲気はゆるく、聞き取りやすいような声で確実に。電話じゃないから、身振り手振りや表情もフルに使った

結果、沢山笑ってくれた。すごく反応よく聞いてくれるもんだからこっちも楽しくて、断固たる思いで断ると決めていたドリンクのおねだりとかも無く、何か笑い方も軽く上品な感じがして、最終的には「この子いい子だな」とか思うくらいにはなってた

聞き上手な飛車だったと思う
自分はいつも、聞き上手な人に憧れる。昔、飲み会かなんかで、「彼女にして欲しいこと」って話題になったときに、特に何か狙ったとかそういうんじゃなくて「楽しんで欲しい」と答えた事がある。そのスタンスは永遠に変わって無いのですが、とても難しい。そもそも自分の未熟さで上手く行かない。話だったり、楽しいものや楽しい場所は調べてたりするんですが、相手を最も楽しませるのは、聞き上手な人だなと最近よく思うようになってて

聞き上手って何だろうって考えたとき「人の話を興味持って楽しんで聞ける人」だなと思いました。巧い返しだとか、引き出すような質問を考えるとかも違くはないのですが、楽しんで聞いてくれる人って、話す人からしたら一番嬉しいですし、興味を持って聞くと、自然と良い質問も生まれるもので。

飛車とのこの1時間は楽しかったし、参考になって、1500円以上の価値はあったなと思いました

で、吉崎もまあ、アゴマツゲとわりと楽しそうに話をしていた

ただ途中、ボーイさんがアゴマツゲに造花を一輪、手渡した

「なんだろう」と思っていたら、吉崎はその花を取り上げ自分のグラスに刺して、ドヤ顔をした。あいつの言うロマンチストキャラってこういうことなのかなと思いながら、すごく飲み辛そうに水割りを飲む吉崎を眺めていた
30分ほど経った頃、また、ボーイさんがアゴマツゲに造花を渡した。待ってましたと言わんばかりに吉崎は花を取り上げ、グラスに刺す。AGMGもなんかウットリした感じを出していた。吉崎はさっきより飲み辛そうだった

そしてお会計

思ったより良い時間だったなと思いながら財布を捜していたその時、どうせ水割りしか飲まないしと思ってろくに見ていなかったメニューの一部が目に入り、驚愕の事実が判明する

造花はいわゆる、女の子の席移動の合図だったようだ。あの花を渡されたら、女の子は別のテーブルに移動で、他の女の子が補充される仕組みだったらしい。

そして、その時は何に使うのかよくわからなかったけど、確かにテーブルには銀の筒みたいなのがあって、「花を刺す」という行為は、花を渡された女の子がどこかに行かないように、キープ……つまり場内指名する行為だったらしい

 

 

 

 

 

 

 

なので、アゴマツゲなんかを2回もキープした吉崎は6000円くらい取られていた

 

 

「ちっくしょぉぉぉーーー!」

吉崎の絶叫が、三が日の田舎町に響きわたる。少し小梅太夫みたいで、まああれもロマンチストキャラと言えるかな

 

 

 

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